ペルー人のとても親切なウェイターさんの案内で、窓際の明るいテーブル席へ。出来立てのパンに、huacatay(ウアカタイ)というミント科の葉の入ったきれいなグリーンのサルサが美味しくて、食事が運ばれて来る前から、ワインのお供についついどんどん食べてしまう私たち。やがて、私がここに来たかった一番の理由、セビーチェが登場!
セビーチェは白身魚をマリネにしたもので、環太平洋の中南米諸国のお料理ですが、ここのCebiche Clasico(セビーチェ・クラシコ)は、コルビーナ(日本名はオオニベ)という白身魚をleche de tigre (レチェ・デ・ティグレ)と呼ばれるマリネ液に漬け込み、炒りコーンのカンチータ とさつまいもを添えたペルーの典型ヴァージョン。見た目はシンプルですが、このleche de tigreの味わい深いこと。苦手なはずのコリアンダーがほのかに香っているのが、とても美味に感じられました。


Astrid & Gastonのオーナー兼シェフであるガストン・アクリオは、「弁護士になるように」という父の希望に従って法学部で勉強していましたが、食の世界への情熱から大学を中退し、シェフになるべくフランスのコルドン・ブルーに入学したのだそう。その後、ドイツ人の女性シェフ、アストリッド・グッツェと知り合って結婚。94年、リマにAstrid & Gastonをオープンさせたあとも、ペルー料理を国内外に広めるため、様々なレストランやフードチェーンをプロデュースしました。08年にはペルー料理の本「500 años de fusion」(500年の融合)を出版し、インカ帝国の前身となるクスコ王国にまで遡るペルーの食文化の歴史とその融合を紹介。09年、同書は「グルマン世界料理本大賞」にて最高賞を受賞して、2011年にはイギリスのRestaurant誌が主催する「世界のベストレストラン50店」の仲間入りを果たしました。
Astrid & Gastonのメニューには、このような一文が書かれてあります。「私たちは芸術家でもなければ真実の持ち主でもありません。ですので、もしあなたが欲しいもの、必要なものが(メニューに)なければ、どうかお問い合わせ、お申し付けください。ご満足いただけるために最善を尽くします」。値段の設定は高めですが、上質な味わい深い料理、謙虚なホスピタリティ、そしてその基盤となっている食文化と歴史に対する一流の誇りとこだわりに触れたら、きっと誰もが納得することでしょう。
*残念ながら閉店しました。
*追記:セビーチェにはcebiche、ceviche、sebiche、sevicheと様々なスペルがあります。 アルゼンチン国内ではcevicheと表記されることが多いのですが、ここではAstrid & Gastonのメニューに従ってcebicheを起用しました。